呼吸が浅い。
咳が出る。
喉が痛みやすい。
肺は呼吸をする上で重要な内臓の一つです。
ただし東洋医学では呼吸以外の機能にも注目しています。
今回、解説するのは単なる肺の機能だけでなく、肺と関わる身体全体の流れです。
肺の生理的な機能
肺は一つの袋状の臓器ではなく肺胞と呼ばれる小さな袋が無数に集まって出来ています。
肺胞では膜と毛細血管の壁を通して、二酸化炭素と酸素の交換が行われています。
呼吸を通じて吸い込まれた酸素は毛細血管を通じて体内に運ばれ、二酸化炭素が呼吸によって排出されます。
このような気体の交換は濃度の高さによって物質が移動する拡散によって行われます。
そのためガス交換にはエネルギーを必要としていません。
肺は左右の胸部に分かれその間には
- 心臓
- 気管支
- 食道
- 大動脈
- 大静脈
- 神経
など重要な器官が通り肺ともつながっています。
そのため肺が腫れる肺気腫という病気では心臓を圧迫し心疾患の原因にもなります。
肺に最も大きな負担を与えるのは喫煙で、二番目には運動不足があります。
人間が食事から得た栄養を代謝するには酸素が必要となります。
そして、酸素が使われエネルギーが生まれたあとには二酸化炭素ができます。
そのため酸素が不足したり二酸化炭素が体内に充満すると代謝が落ちてしまいます。
呼吸のしくみ
肺は自力で膨らむことは出来ません。
空気を吸ったり吐いたりする際には、肋骨を上下させたり横隔膜を上下させることで肺を膨らませたりしぼませたりします。
息を吸うときには肋骨の間の筋肉が働いて肺を横に広げ、同時に横隔膜が縮んで下にさがり肺は下に広げられます。
息を吐くときには肋骨の間の筋肉により肋骨を縮め、横隔膜は上にあがることで肺をしぼめます。
通常であれば安静時の1回の呼吸で、肺に吸い込まれる空気の量は大人の男性で400〜500ml程度です。
これが小学生なら200〜300ml程度と大人と子供では大きく異なります。
肺の負担となるもの
呼吸とは酸素を体内に取り込み、不要な二酸化炭素を体外へ放出する働きのことです。
酸素は鼻や口から喉を経て気管へと入っていき最後に肺胞に到達します。
そして肺胞で酸素と二酸化炭素の交換が行われ、逆の順序で鼻や口から出ていきます。
気管では炎症が起こりやすく、炎症が連続して起こっていると咳や痰が出ます。
気管支喘息の場合は、気管支がアレルギーなどによって炎症をおこし過敏になるので少しの刺激で炎症が起こるようになります。
また肺で炎症が起これば肺炎と呼ばれ、主に細菌やウイルスなどの病原体の感染によって肺が炎症を起こします。
高齢者などでは食べ物や飲み物が誤って気道に入ったり、胃の内容物が逆流したりして起こる場合もあります。
肺での炎症が繰り返し起こると、肺胞の弾力性が低下して肺気腫(はいきしゅ)と呼ばれる状態となりガス交換が十分に行われなくなります。
すると普段からちょっとしたことで息切れや呼吸困難が起こるようになります。
また肺の外側で炎症が起こると間質性肺炎と呼ばれ、外側から肺胞が硬くなり線維化が進みます。
線維化した肺胞は硬く縮んでいくため呼吸が困難となり悪化すると死に至ります。
さらに肺の表面は胸膜というなめらかな膜で覆われています。
そして肺と肺の周りをかこっている肋骨の間にある胸膜腔と呼ばれる隙間には、摩擦を防ぐための潤滑剤の役目を果たす水分があります。
最近では肺炎が癌や心疾患に次いで死亡率の高い病気となっています。
高齢者や慢性の心臓病や肺の病気、糖尿病などの持病があって免疫力が低下している人は肺炎を起こしやすく重症化しやすいと言われています。
肺の生活習慣病
近年になって肺の生活習慣病として注目されているのが慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼ばれる病気です。
COPDとは、これまで慢性気管支炎や肺気腫とよばれていた病気の総称で、たばこの煙などに含まれる有害物質を吸い込むことで起こる肺や気管支での慢性的な炎症を指します。
そんなCOPDの症状は咳や痰で、長い時間をかけて進行します。
またCOPDは運動不足による肺機能の低下も原因となっています。
運動不足で呼吸に使う筋肉が衰るほどにCOPDは悪化しやすくなります。
また筋肉量を維持するために普段からタンパク質の摂取を心がける事も大切です。
呼吸筋
胸郭は背骨と肋骨、胸骨で作られた内臓を守る部位です。
呼吸筋とは、
- 横隔膜
- 肋間筋
- 胸筋
- 腹筋
- 呼吸補助筋
- 上気道の筋
などに分類され、胸郭を上下や前後に広げます。
肺を効率的に動かそうと思えば胸郭を動かすのが一番です。
呼吸運動の中でも主要な役割を果たすのが、
- 横隔膜
- 肋間筋
- 腹筋
です。
そのため運動不足により腹筋などが弱ると呼吸は浅くなってしまいます。
呼吸補助筋と呼ばれるのは、
- 胸鎖乳突筋
- 斜角筋
- 僧帽筋
- 大・小胸筋
などになります。
呼吸補助筋の中でも役割が大きいのは、胸鎖乳突筋と斜角筋です。
胸鎖乳突筋も斜角筋も首の筋肉で緊張が強くなると呼吸が浅くなります。
斜角筋は役割が大きいので、頚の緊張は呼吸に大きな影響を与えます。
普段から首こりや肩こりがある人の多くは呼吸が浅くなっています。
東洋医学から見た肺
東洋医学から見ると、肺は呼吸によって身体の気(代謝)を統括しています。
肺が一定のリズムで呼吸を行うことで、全身の気(代謝)が行われ血(栄養)や津液(水分)の運行がスムーズに行われます。
つまり全身の代謝や血行は、肺のおかげで上手く機能します。
過労や精神疲労による浅い呼吸は、肺の機能が低下して全身の気血津液のリズムが乱れて疲労や倦怠感が強くなります。
肺は寒さに弱いので、寒いと肺の機能低下が起こり栄養を指先まで循環できなくなると指がかじかんでしびれます。
人間の呼吸は肺による呼吸だけでなく、皮膚も呼吸しています。
そのため、寒さなどの外からの影響を最初に受けるのは呼吸器なのです。
外からの影響とは、
- 気温差
- 気圧差
- 湿度
になります。
肺が弱い人はこういった気象条件が変わるだけで、すぐに不調になります。
そして、肺は他の内臓への影響が大きいので、肺が弱いということは風邪を引きやすい体質になります。
だから子供の時に鍛えておきたい内臓は肺になります。
津液(水分)の代謝は肺がメインで行われ、他にも脾(膵臓)や腎、三焦(リンパ)、膀胱によって行われています。
痰や鼻水が多い人は、肺の機能が低下して溢れた水分が上部から出てくる現象です。
東洋医学における肺の役割
東洋医学における肺の役割は、
になります。
肺は呼吸を行う時に内臓に刺激を与えて津液(水分)の流れを良くします。
また取り入れた酸素が血(栄養)となって内臓を潤し気(代謝)を高めます。
ここで重要となるのが鉄分です。
取り入れた酸素を全身に運搬する時には鉄の力が必要となります。
大腸に炎症や潰瘍などの異常がある時は鉄の吸収率が下がります。
そのため肺が大腸の働きを助けると同時に、大腸が肺の働きを助けています。
そして脾臓では赤血球を分解する際に鉄分を再利用しています。
腎臓では余計な水分を排泄し肺の仕事を助けています。
このように肺は単独で働いているのではなく、他の臓器の助けを借りて気血津液を整えているのです。
肺を強くする方法
まず肺に悪影響を及ぼすのは乾燥した冷たい空気です。
つまり、秋から冬にかけて咳を伴う風邪をひきやすいのは肺が弱ると考えました。
こんな時に昔からの知恵で用いられたのがキムチです。
韓国の気候は極めて寒く乾燥しています。
そんな気候に対抗するために白菜のキムチを開発したのですね。
キムチは、
- 肺の気(代謝)を上げて熱を生産する
- 痰湿(たんしつ)を解消する
などの作用で体温を保ちます。
白菜は肺にこもった熱を発散させて津液の流れを良くします。
辛味には津液の流れを良くする働きがあるので苦手でなければ効果的です。
薬膳から見れば白菜や玉ねぎなどの白の食材は肺の機能を高めます。
辛いのが苦手な人は、ネギ玉ねぎなどの辛さでも大丈夫ですよ。
玉ねぎに含まれるアリシンは、
- 気(代謝)を上げる
- 瘀血(おけつ)を解消する
などの作用があり、古来から薬用植物と呼ばれています。
寒い時期はサラダよりスープにして摂取した方が玉ねぎの効能が発揮されます。
また、軽く汗ばむ位に動くと身体の水分吸収が上がって肺の機能を高めます。
運動によって胸や肩周りの筋肉に刺激を入れることで、肺は動きやすくなって呼吸は一段としやすくなるからです。
東洋医学から見た肺の症状
東洋医学から見た肺の機能低下には、
- 肺気虚(はいききょ)
- 肺陰虚(はいいんきょ)
などがあります。
肺気虚は肺の機能が低下しているので、声が小さくなり顔色がすぐれません。
また寒がりですぐ風邪を引いてしまいます。
肺陰虚は乾いた咳が特徴です。
痰はあっても量は少なく粘っこいものを出します。
声は出ますがかすれてしまい、常に喉の渇きを感じます。
また肺の機能は下がっていなくても気圧や発熱、乾燥などが原因で様々な呼吸器の不調は肺の実証と呼ばれます。
肺は気温や湿度の変化に敏感に対応します。
ですが一年を通して空調が効いた室内にいると肺の対応力が低下します。
肺の機能を保つためには四季に合わせた過ごし方が大切です。
夏には暑い環境でしっかりと発汗を促し、冬は寒さの中で動いて体温を高める事も大切です。
また空気が乾きすぎないように湿度の管理も必要です。
まとめ
肺の主な機能はガス交換です。
ガス交換をする際には様々な筋肉が働き気(代謝)を高めます。
また津液(水分)を巡らせる際には呼吸運動は必須です。
肺の機能を高めれば身体の水分代謝を高めます。